私はかなり劣悪な三流テレビドラマでも結構よく泣いてしまう。少し涙腺が少しゆるいようだ。ところが「硫黄島からの手紙」に私は最後まで涙しなかった。泣くことを期待してこの映画をみに行くと肩透かしを食らうかもしれない。涙だけなら凡作「硫黄島 戦場の郵便配達(先日フジテレビが放送)」のほうが泣けた。
映画館で観る戦争映画は臨場感がありすぎ、緊迫感・恐怖感から泣いているひまがないということもある。
映画をみ終わった直後は、感情のもって行き場がなくただひたすら不条理感を味わい続けるしかなかった。「不条理だ」「不条理だ」「不条理だ」と心の中で繰り返し続けた。
「硫黄島からの手紙」はお涙ちょうだい映画ではない。だが完成度がきわめて高い映画だった。戦場を生々しくリアルに描写しながら、表現には清潔感と品格があった。日本軍の負の部分にもかなり踏み込んでいた。だが表現にいやらしさがなかった。イーストウッド監督の人間力のようなものを感じた。
「西部戦線異常なし」にはじまり、戦争映画に傑作は多い。それでもこの映画は戦争映画の五指に入るような歴史的傑作だと思う。個人的には「西部戦線異状なし」と「地獄の黙示録」と「硫黄島からの手紙」が新ベスト3だ。「戦場にかける橋」より「硫黄島からの手紙」のほうが私は格上だと思う。
クリント・イーストウッドの映像表現は彼のルックスの印象そのものでハードボイルドである。表現対象を突き放した感じがする。あまり感情移入することなくドキュメンタリータッチで淡々と事実を追っていく。かわいた感じ、時に枯れた感じがする。その結果観客も特定の人物に感情移入しすぎることなく、客観的視点で映画を見続けることになる。このことは映画に深くのめり込めないという短所もあるが一つの視点からではなく複眼的にこの映画、この戦争を見てもらいたいという監督の強いメッセージでもあろう。
映像の画質は極端に色を抑えている。かつてスピルバーグがノルマンディ上陸作戦を描いた「プライベートライアン」もいぶし銀のような色合いだったが「硫黄島からの手紙」はさらに色を抑えほとんどモノクロ映画に近い色調である。しかしノスタルジックなセピア色とは全然違う。硫黄島の青い空、青い海は実は楽園の如くだが、それらを抑制し寂寥感すら漂う沈鬱な映像は兵士の心象風景なのだろう。
日本の表現者、特に日本の映画監督はこの映画をみて自らに恥じ入っているのではないだろうか。クリント・イーストウッドがほとんど思いつきで作った映画であるにもかかわらず、日本の戦争をこれほど冷静、冷徹にしかも深く切り込んだ作品はなかった。本来日本人がやるべきことを外国人にやられてしまった。
日本の戦争映画は回想シーンだらけである。むしろ戦闘シーンは脇役で回想シーンこそが主役である。結果、戦争映画なのに女優や子役の出番がたいへん多かったりする。私はこのことこそが日本の戦争映画を甘っちょろいものにしてしまっている元凶だと思う。日本人は戦争に真正面から向き合おうとしない。日本映画は天皇陛下への思い、愛国心、公共心、仲間との団結力みたいなものはわざと描かず、戦う動機を家族愛のみに矮小化させていく。当時の事実を黒く塗りつぶし、今の観客に受ける気分だけで映画を作っている。
女、子供の出番を多くしないと戦争映画は女性観客の動員が期待できなくなり興行が厳しくなるという製作者、興行主の意向も強く働いているのだろう。
「硫黄島からの手紙」は回想シーンを極力抑えている。日本映画ならば栗林中将の妻と子は必ず出演させるだろうがこの映画には登場しない。非力な日本の戦争映画のアンチテーゼのような作風である。
映画は徹底的に硫黄島で日本軍に起ったことのみに集中して描いていく。戦争の現場主義である。戦場の現場の描写にほとんど特化している。しかしそのことが逆に戦争というものの本質、何か普遍的なものを観客に問いかけてくる。いや、突きつけてくる。
この作品は「戦争反対!平和が一番」的な日本の戦争映画につきものの安っぽくしかも薄っぺらな説教臭は全くしない。映画は陳腐なセリフを登場人物に語らせるようなこともしない。事実に近いであろう描写をたたみ込むように積み上げていくだけである。そしてそれをそれぞれ映画をみる人が考え感じて欲しいというある種の潔さがある。この映画に品格を感じる所以である。
観客が感情移入できる役柄は渡辺謙演じる栗林中将、元パン屋の二宮和也、オリンピック馬術金メダルのバロン西中佐を演じる伊原剛志、憲兵くずれの加瀬亮の4人だろう。
前評判では渡辺謙と二宮和也が絶賛の嵐だが伊原剛志と加瀬亮もなかなかいい。伊原剛志演じるバロン西は映画の中でもっともかっこいい役である。バロンとは男爵のことである。貴族階級の将校で「大いなる幻影」を彷彿とさせるような人物だ。欧米人好みの武士道の体現者が彼である。加瀬亮演じる兵士には感情移入しているという自覚症状はなかったが彼が撃たれるとき自分が撃たれるような恐怖をおぼえ、彼の死体を見たとき自分の死体を見ているようなショックがあった。
この映画に対する自分なりの不満も書いておく。
下っ端の兵卒クラスはいやいやながらしかたなく戦争をやっている風だったが日露戦争の時代ですら日本国民は当事者意識をもって戦っていた。このことこそが日本軍の最大の強みだった。二宮和也の役などは下っ端兵士のモラールは低いに違いないという米国風のステレオタイプの兵卒で、当時の日本兵の普通の感覚からはずれていたと思う。また将校クラスでも上官に反抗的すぎる者がたくさんいたがこれもいかにも米国風である。儒教社会の感性ではない。上下の指揮系統は米軍よりも日本軍のほうがむしろよく機能していたのではないだろうか。違和感を感じた。また硫黄島で日本軍は圧倒的な戦力差を36日間という長期にわたりよく戦ったのだが、ドラマはよく戦ったという感じが足りない気がした。映画をみる限り、戦闘開始から5日間程度で玉砕したとの印象を受けた。
私は映画・演劇のコアなファンだが私が不満に感じた部分は事実誤認からではなくドラマ演出上の要請からだろうという察しはつく。
比較的最近、アカデミー作品賞をとった戦争映画に「プラトーン」と「プライベートライアン」がある。戦場を仮想体験するようなバーチャル感覚ではこの2本のほうに軍配が上がるが、「硫黄島からの手紙」はこれら2本とは比較にならないほど多くの問題提起を含み高い境地に達している。ちなみに「プラトーン」と「プライベートライアン」においてはカメラの視点は主人公の視点であり、結果観客は主人公と一体化して戦争を体験していく構造になっていた。
案外、アカデミー賞は見識があるのでこの映画が字幕スーパーのハンディを乗り越え作品賞を受賞するのではないだろうか。この映画はスペクタクル大作だが娯楽作品ではない。この映画は芸術作品である。この映画を戦争映画の最高傑作という人がいたとしても私は不思議ではない。
ただし情感を大切にする日本人好みの語り口、演出方法とは対極に位置するような作品であることも事実である。流す涙の量だけで作品の価値を決めるタイプの人たちにはこの作品の真価は理解できないかもしれない。
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[硫黄島からの手紙] ブログ村キーワード硫黄島からの手紙(原題:LETTERS FROM IWO JIMA)キャッチコピー:世界が忘れてはいけない島がある。日本から見た「硫黄島」製作国:アメリカ製作年:...
この記事のサブタイトルは「父親たちの星条旗」の記事の続きという意味で“…俄かイーストウッドファンなピロEK(その2)”とするはずでしたが、他に思い浮かんだのでやめました(で、上記タイトルに変更){/ase/…
「父親たちの星条旗
」と同時期に作られ、同時期に公開された
クリント・イーストウッド監督の作品。
DVDで鑑賞。
2006年、硫黄島の地中から発見された数百通もの手紙。
それは61年前、この島で戦った男たちが…
米国で知名度の高い政治評論家のジョージ・ウィル氏は25日付のワシントン・ポストなどへの寄稿論文でクリント・イーストウッド監督の映画「 硫黄島からの手紙 」が日本軍将兵を人間らしく描いたことは米国映画の歴…
『硫黄島からの手紙』’06・米 [虎党 団塊ジュニア の 日常 グ…]
あらすじ戦況が悪化の一途をたどる1944年6月アメリカ留学の経験を持ち、西洋の軍事力も知り尽くしている陸軍中将の栗林忠道(渡辺謙)が本土防衛の最後の砦ともいうべき硫黄島へ。指揮官に着任した彼は、長年の…
公開中の映画「硫黄島からの手紙」を観賞。監督・製作:クリント・イーストウッド。製作:スティーヴン・スピルバーグ、ロバート・ロレンツ、製作総指揮・共同原案:ポール・ハギス。脚本:アイリス・ヤマシタ。出演…
監督:クリント・イーストウッド
出演:渡辺謙、二宮和也、伊原剛志、加瀬亮、松崎悠希、中村獅童
評価:72点
公式サイト
(ネタバレあります)
何が凄いって、これだけ日本人がワラワラ…
アメリカで公開された「父親たちの星条旗」に対して,日本で公開されたのが,この「硫黄島からの手紙」
日本とアメリカ,それぞれから見た,第二次世界大戦での硫黄島の戦いを描いている.
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硫黄島からの手紙監督:クリント・イーストウッド制作:スティーブン・スピルバーグ出演:渡辺謙/二宮和也/伊原剛志/加瀬亮/中村獅童/他戦況が悪化の一途をたどる1944年6月。アメリカ留学の経験を持ち、米軍...
「硫黄島からの手紙」★★★★★必見!
渡辺謙、二宮和也、伊原剛志、加瀬亮出演
クリント・イーストウッド監督、2006年、アメリカ
硫黄島が制圧されたら
米軍の戦闘機がいよいよ日本の本土に向かうことにな…
硫黄島2部作の第2弾 アメリカ側の視点から描かれた「父親たちの星条旗」に 対し、
≪ストーリー≫
戦況が悪化の一途をたどる1944年6月。アメリカ留学の経験を持ち、米軍との戦いの厳しさを誰よりも覚悟していた陸軍中将・栗林が硫黄島に降り立った。着任早々、栗林は本土防衛の最期の砦である硫黄…
一部の軍事マニア、元軍人を除いて、どれだけの日本人が硫黄島での激戦に思いをはせてきただろうか。東京都に属するこの島の位置すら、僕らは指し示すことができない。クリント・イーストウッド監督(76歳!)の…
硫黄島からの手紙公開中ストーリー ☆☆☆☆☆映画の作り方☆☆☆☆☆総合評価 ☆
映画「硫黄島からの手紙」 [しょうちゃんの映画ブログ]
2006年70本目の劇場鑑賞です。公開翌日観ました。「ミリオンダラー・ベイビー」のクリント・イーストウッド監督作品。硫黄島での戦いを日米双方の視点から描く2部作の「父親たちの星条旗」に続く第2弾。アメリカ留学…
クリント・イーストウッド監督が撮る戦争映画はこれで完結された。僕は、彼の「父親たちの星条旗」に続く圧倒的なパワーを感じ、自分は日本人だということを感じたのだ。
反日俳優とウワサされたクリント・イーストウッド監督による南京大虐殺の映画が作られるという事で w ・・・(中略 w )・・・、日本公開初日の今日、「硫黄島からの手紙」を見に行きました。
ハリウッド映画…
映画「硫黄島からの手紙」 [茸茶の想い ∞ ~祇園精舎の鐘の声…]
原題:Red Sun, Black Sand (Letters From Iwo Jima)
硫黄島に眠っていた、その手紙は61年ぶりに発見された、地中にあった硫黄島からの手紙、それは輸送爆撃機「一式陸攻」によって配達されるはずだった・・
…
本日、「硫黄島からの手紙」を観てきました。
初め、ポップコーンなぞを食べていたガキどもも中途からはスクリーンに見入っており、エンディングロールが流れても誰一人席を立とうとしませんでした。
σ(…
◆硫黄島-Iwa Jima [ロハス(LOHAS)咲く。]
世界で忘れてはいけない島がある
******硫黄島******
この映画のおかげで「硫黄島に行くにはどうすればよいのか?」という問い合わせが今までは月に1回くらだったのが、今では1日に何回も問い合わせがあるようになってしまったと新聞に載っていました。と言うわけで…
硫黄島からの手紙 [映画/DVD/感想レビュー 色即是空日…]
ただの涙だけじゃない、
アメリカが描いた日本兵の姿。
『硫黄島からの手紙』 [ふつうの生活 ふつうのパラダイス]
やっぱりヘンな日本がでてくるよー。何とかして。イーストウッドは最初日本人の監督でこの作品を作らせるつもりだったらしい。でも、結局自分でやっちゃったみたい。監督はイーストウッドでもいいからさ、せめて大道…
監督 ・ 製作 : クリント・イーストウッド /製作 : スティーヴン・スピルバーグ
…
クリント・イーストウッド監督の硫黄島二部作の二本目。
日本側から見た戦争のお話。
戦争映画苦手なひらりんとしては、
覚悟してみなくちゃいけません・・・。
※しばしトップ固定 最新記事はひとつ下より ↓↓
※ホンダラさん!さっそく補足ありがとうございます!
私が演じたのは、ひとりのパン屋です。この作品を見てから、今もたくさんのことを感じ、考えて…
省みても 繰り返す 人類史
もちろん、忘れ去られつつある太平洋戦争を第1部「父親たちの星条旗」と第2部「硫黄島からの手紙」、双方から描くことで、各々の立場とそれを超えた共通性を示しながら、改め…
国民の 首をすぐ切る 愛国心
そして硫黄島第2弾。あの「ミリオンダラー・ベイビー」の巨匠クリント・イーストウッド監督が、太平洋戦争で壮絶を極めた硫黄島での戦いを、アメリカ側、日本側それぞれの視…
1945年 硫黄島
アメリカが5日で終わると思っていた戦争を
36日間守り抜いた日本人たちがいた
これは彼らの話である
トゥモローワールドに続いて、強烈な映画を観てしまいました。
(トゥモローワールドの感想は[[こちら>http://blog.livedoor.jp/clausemitz/archives/50414900.html]])
ある意味、これほど観るのがイヤで…
随分昔に「硫黄島の砂」と言う映画は見たことがあるが、その印象はほとんどない。ジ
映画「父親たちの星条旗|硫黄島からの手紙」〜世界場忘れてはいけない島がある。〜は、第2次大戦時の硫黄島の戦いを日米双方の視点から描く史上初の「硫黄島」映画を2本製作した。米俳優でアカデミー賞監督のクリ…
観賞後に胸を満たすのは,反戦の強い思い,ただひとつ。
「硫黄島からの手紙」が評論家に好評、下記のアメリカ映画協会や団体で最優秀の評価。
LOS ANGELES FILM CRITICS ASSOCIATION
TOP MOVIE OF 2006
AMERICAN FILM INSTITUTE
TOP 10 MOVIES OF 2006 (この協会は10…
『硫黄島からの手紙』鑑賞! [☆★☆風景写真blog☆★☆healing…]
『硫黄島からの手紙』鑑賞レビュー!
世界が忘れてはいけない島がある
硫黄島を知っていますか?
東京都小笠原村硫黄島——
グアムと東京のほぼ真ん中
日本の最南端に近い、周囲22kmほどの小…
by tororogohan
TBS『世界ふしぎ発見』、茶の…