結論からいえば、第3話は今までで一番面白かった。見せ場が盛りだくさんで、フレンチのフルコースを食べているかのようだった。(私は和食党なので、たとえのフレンチにはかすかな悪意が混ざっているが)秋山父(伊東四朗)が死ぬ前後のエピソード、渡哲也演じる東郷平八郎の初登場、好古が旗本のお嬢さん(松たか子)と結婚するエピソード、加藤剛演じる伊藤博文の芝居、好古が日清戦争に出征するさいの夫婦の別れのシーン… いやあ、なかなか充実感のあるドラマだった。
第1話をみて、原作に忠実なドラマ作りを行っているなと思った。第3話までみたが、その方向性は一応守られていた。NHKは余計な脚色をせず、最後までその姿勢を堅持して欲しい。しかしモンタージュの手法で、原作にない『NHKらしさ』を一部発揮していた。日清戦争前夜のエピソードで、仁川のシーンが挿入されていた。そのシーンは『無垢な朝鮮の子ども』『どしゃ降りの雨夜』『日本軍の行進』をミックスさせることで、不気味なモンタージュをつくり出していた。原作にないイメージだった。
『NHKらしさ』というか『天地人』風のデタラメもあった。ディテールの話ではあるが、脚本の時間軸が混乱していた。第2話の見せ場の一つに、好古がフランス留学を決めるさいのシーンがあった。宝田明演じる松山藩執事と好古との芝居が見ものだった。ジーンとくるシーンだった。そのシーンの直後、『1年後』というスーパーが入り、広島県江田島で訓練を行う真之の映像が登場した。ナレーションでは、海軍兵学校が築地から江田島に移ったのは真之が3年生の時で、江田島に移った最初の夏に休暇があり、真之は松山に帰郷したと説明していた。真之はこの時子規の実家に立ち寄った。そのさい子規の母は「ノボ(子規のこと)は東京で元気にやっとりますか?」と語り、真之は「実はあしが予備門をやめてからおうとりません。もう1年になります。しかしノボさんの噂は風の便りで聞いとります~」と語っていた。真之は海軍兵学校に入学して3年経っている。東京大学予備門をやめてから会っていないのでもう1年になりますという話は、まったく辻褄が合わなかった。
昨日の回では、喀血した子規が病気療養で松山に戻っているさい、休暇で松山に戻った真之が子規の家を訪ねるエピソードがあった。子規は真之に会うことを「3年ぶりじゃー」と喜んでいた。子規の妹は「実は去年の夏にも(真之は)戻っていた」と語った。もう時間軸が無茶苦茶である。正直いってディテールであり、作品にとって重要な問題ではない。しかしこういう脇の甘さは、作品の完成度を著しく貶める。
文句のいいついでだ。清の北洋艦隊が来日したさいの描写がまったく物足りなかった。この時日本に乗り込んだ戦艦定遠は東洋一の大きさで、当時としては信じられないような厚い装甲を誇っていた。定遠の巨大さや不沈要塞的威圧感は映像としてきちんと表現して欲しかった。日清戦争というか『坂の上の雲』を考える上で重要かつ必要なイメージだった。私は北九州市の小倉出身だが、小倉の手向山や門司、対岸の彦島や下関が要塞化(下関要塞基地)されはじめたのは、定遠が来日した翌年(1887年)のことだった。関門海峡の軍事要塞化は北洋艦隊の来日がきっかけだった。日本人は北洋艦隊にビビリ上がったのだ。清の軍規がデタラメで、モラルハザードを起こしていることは表現されていたが、片手落ち(差別用語?)だった。
『坂の上の雲」は秋山兄弟の話としてスタートするが、だんだん群像ドラマに変化し、最後は主人公は明治の日本そのものだったみたいな感じになっていく。その群像たちが着々と登場している。第1話は西田敏行演じる高橋是清、第2話は小澤征悦演じる夏目漱石、高橋秀樹演じる児玉源太郎、第3話は渡哲也演じる東郷平八郎、加藤剛演じる伊藤博文、國村隼演じる川上操六、大杉漣演じる陸奥宗光、江守徹演じる山県有朋らが登場した。キャスティングという点で、私の中で合格点は、加藤剛(伊藤博文)、西田敏行(高橋是清)、渡哲也(東郷平八郎)、ギリギリ合格が高橋秀樹(児玉源太郎)、國村隼(川上操六)、残りの大杉漣(陸奥宗光)、江守徹(山県有朋)、小澤征悦(夏目漱石)はぜんぜんダメだった。(笑)3人とも嫌いな役者ではないが、役柄にマッチしていない。ギリギリ合格の高橋秀樹はどこまでも高橋秀樹のままで、児玉源太郎が高橋秀樹にしか見えなかった。國村隼の川上操六は「ドイツ帰りの陸軍きっての英才」にまったく見えなかった。川上操六がヤクザの親分みたいな感じだった。大杉漣は風貌・体格・知性等、あらゆる意味で陸奥宗光の匂いがしなかった。髭も衣装もとってつけたような感じだった。江守徹もそうだ。こちらは知性までは否定しないが、山県有朋の匂いがまったくしなかった。小澤征悦演じる夏目漱石は、夏目漱石を冒涜しているとしか思えなかった。漱石の知性がまったく感じられなかった。漱石の神経質な感じもまったくしなかった。「坊ちゃん」の主役だったら小澤征悦でもいい。しかしこの人は「こころ」を書いた漱石ではない。良いほうでは、加藤剛の伊藤博文が出色の出来だった。伊藤博文のシーンは、加藤剛の芝居をみているだけでも見ごたえがあった。加藤剛の伊藤博文には、胆力があった。伊藤博文は、日本の初代内閣総理大臣でその延長線上に鳩山由紀夫内閣総理大臣が存在している。総理大臣が一億分の一くらいまで劣化している。
『坂の上の雲』は一気に放送して欲しいが、実際は3年がかりの放送だ。『坂の上の雲』は高揚感のある話だ。一気に放送すると愛国者が増えるので、愛国者を増やさないために、わざと冷却期間をおきながらNHKは放送するのだろうか?うがった見方だが。(笑)


by tororogohan
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