私はフランソワ・トリュフォーという監督が好きだ。この監督、恋愛に関する映像表現が抜群にうまい。作品は短編を含めて全部みている。一般的に有名なのは、「大人は判ってくれない」「突然炎のごとく」「アメリカの夜」あたりか。私は「恋のエチュード」「柔らかい肌」「隣の女」短編の「あこがれ」あたりが特に好きだ。「柔らかい肌」をはじめてみたのは24~5歳の頃だった。当時はちょっと不純・不潔な印象をもった。ところが10年くらい経って見返してみると、妙にしみてしまった。私が不純になったからだろうか?(笑)
「海岸物語 昔みたいに」はトリュフォー的というか、日本の普通のテレビドラマとは一線を画していた。私にとって「海岸物語 昔みたいに」は今でも日本のテレビドラマナンバー1作品だ。
話は閉店した湘南のパン屋をそこで学生時代バイトをしていた男たち3人が店を再開させようとする話である。パン屋のお嬢さんは3人の男たちの憧れの存在だった。10年前、それぞれの夢を語っていた男たちは夢を見失い、ただなんとなく平凡な毎日を送っているだけだった。そんな男たちが居心地のよかった過去にまいもどるようなマイナス志向のシチュエーションから話ははじまる。しかしかつて居心地がよかった場所で誰もが傷ついてしまう。ここでさまざまな葛藤をえた後、もう一度それぞれが過去をふりきり新たに人生を歩みはじめる話である。

最近のドラマの登場人物はこれでもか状態で不自然なほどアクシデントに巻き込まれ続けるが、「海岸」で最大の事件は主人公の達也の2度の男女関係である。静かな話のようだが、主要登場人物7人中6人までが、ボロボロ状態になるまで激しく傷ついてしまう。悪人がいるわけでもないのに誰もが激しく傷ついてしまう。起こる事件を共有しながらそれぞれが別々の理由で傷ついてしまう。
セリフは純文学のようで芸術の領域の、しかも高い位置に達している。脚本の構造は精密機械のようで、かなり映画やドラマを見慣れている人でも、3回みれば3回目にも新たな発見があると思う。マニアックな伏線が張りめぐらされているのだ。はじめから視聴率よりも作品のクオリティのみを追求していた節がある。その意味ではバブルの時代だったからこそつくれた作品かもしれない。
脚本の松原敏春氏はすでに亡くなっている。この作品は彼が40歳のころの作品だ。彼はなんと53歳で亡くなった。このドラマをみた人ならわかるが、この作品は松原氏が人生のすべてをぶつけた渾身の作品だったろうことが強く伝わってくる。視聴率的には失敗したかもしれない。ヒット作の多い松原氏だが彼がもっとも愛したのはこの作品ではないかと私は勝手に想像している。
このドラマが1本のビデオにおさまっていたのなら、クチコミで名作としての評価をとっくに手にしていただろう。ところがあまりヒットしなかったこのテレビドラマはビデオ化されることなく、しかも18年間再放送すらされることがなかった。私が録画ではじめてみた89年の三井奥さま劇場(朝10時から)が最後のはずだ。今回の再放送も地上波ではなくCS放送である。
今回、TBSチャンネルで再放送をみたが、恋愛ドラマとしては映画を含めてもこれ以上のものはないというくらい名作だと思う。好きで好きでしかたがない作品である。私にとってはおとぎ話のようでもある。
この作品はどこのレンタルビデオ屋に行ってもDVDで借りれる状態になるべきだと私は願っている。これほどの名作がいまだに無名の作品であることが残念でしかたがない。古典として評価されるべき作品だと思う。


by tororogohan
TBS『世界ふしぎ発見』、茶の…